2017年11月1日水曜日

ゲーム会社が開発した異色の教科書

勉強の為に転載しました。
https://www.projectdesign.jp/201408/offstage/001550.php

2014年8月号
商品開発の舞台裏


一木裕佳(バンダイナムコゲームス 社長室新規事業部ゼネラルマネージャー)
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授業時間でなくても開きたくなる――。そんな夢の教科書がバンダイナムコムゲームスの企画・制作によって誕生した。そこにはプレイヤーを常に飽きさせない、ゲーム制作で培った暗黙知やノウハウが詰まっている。
ゲームメソッドで開発した教科書。学習内容のレベルアップがわかるツリーハウスなど、さまざまな仕掛けを取り入れた

全国2500 校が採用
子どもを夢中にするノウハウとは

家庭用ゲーム、業務用ゲーム、モバイルコンテンツなどあらゆるプラットフォームにおいてゲームを手がけるバンダイナムコゲームスが異色の挑戦に試みた。ゲーム業界初の教科書作り。同社が教科書出版の老舗・学校図書に共同開発を持ちかけ、小学生向け教科書の制作が実現。「ゲーム×教育」という異色のタッグは、異例のヒット作を生み出すことになる。
採用が始まった2011年度からの3年間、累計発行数は算数だけで480万冊。都内の有名私立校を筆頭に、全国の小学校2500校が採択している。ゲームのように夢中になる学習システム、親しみやすいキャラクター設定、CG素材を組み合わせた鮮やかなビジュアル――。ゲーム開発で培った数々の知見が高い評価を受け、教育現場から敬遠されてきたゲーム会社が学校教育のあり方に一石を投じた。
立役者は同社で新規事業を担う一木裕佳氏。ゲームクリエイターが持つ技術やノウハウを「ゲームメソッド」と名付け、他分野に活かすべく、2011年にゲームメソッドコンサルティング事業を立ち上げた。ゲームと程遠い教育の領域に踏み込んだのは、一木氏がゲームの未知なる可能性を確信しているからだ。
「子どもが親に怒られてまでゲームに没頭するのは、説明書を読まなくても直感的に遊び方が理解でき、『おもしろそう』という興味を喚起するから。発想力や技術力、芸術性、サウンドが絶妙に組み合わさることで、プレイヤーにワクワク感を演出し、何度でもやりやくなる。私たちが培ったゲームの手法は、ゲームに無縁な世界にも役立つはずです」
同社は、80年代後半からゲームの効能に関する科学的な分析・調査を進めており、各分野の研究機関とともに、ゲームの効能の実証や老若男女が楽しめるプレイシステムの構築などを行ってきた。たとえば、アミューズメント施設で人気の「太鼓の達人」は、九州大学病院との共同開発でリハビリ用に改良し、全国の介護施設に導入されている。

ゲームクリエイター全面協力
常識破りな教科書づくり

ゲームとは無縁の業界からナムコ(現バンダイナムコゲームス)に入社した一木氏にとって、ゲームは「自分の生活から一番遠い存在だった」という。当時は「ゲーム脳」という言葉が流行し、少年犯罪の原因はゲームにあると、メディアが扇情的に報じることも少なくなかった。ゲーム会社に対する風当たりの強さは想像以上で、出版社に教科書制作の話を持ちかけては追い返される日々が続いた。そんな中、熱意でなんとか賛同いただいた学校図書に、一木氏は「図々しい条件」を提示する。
一木裕佳 バンダイナムコゲームス 社長室新規事業部ゼネラルマネージャー
「裏表紙に、発行者としてバンダイナムコゲームスの社名を入れるというお願いです。」ゲームに対する偏見を変えたい一心だったと言う。こうして「授業時間でなくても開きたくなる教科書」を目指し、3教科(理科・算数・国語)全28冊の制作プロジェクトが始動した。
前例のない教科書づくりには、意欲の高いクリエイターが必要だ。社内で募集をかけたところ、格闘ゲームの制作が得意な者、教員免許を持つ者、PTAの役員をする子持ちの者など、個性豊かな面々が集まった。「メンバーには教科書内容に関する勉強会に参加してもらい、1年かけて担当教科の問題が作れるレベルにまで知識と技能を向上させました」
同社の知見が顕著に見られるのは、理科と算数だろう。理科では、各学年の巻頭にツリーハウスの模型写真を掲載。1年間で学ぶ内容を手作りの粘土細工で表現すると同時に、4つの分野(エネルギー、物質、生命、地球)の学習内容を次の学年へとツリー状に繋げて見せることで、1つの分野が次の学年でどう繋がるか一目瞭然にした。
算数では、全学年に一貫して登場する5人のキャラクターを設定。キャラクターと一緒に算数という大海原に繰り出し、冒険(学び)をしながら共に成長していく世界観を創出した。巻末には、問題を解いてカギの破片を探し当てるコーナー「数学アドベンチャー」を設置。全学年の問題を解き終わると、宝箱を開けるカギが手に入る仕組みだ。
こうして完成した教科書の評判は上々で、「道徳など、他教科も作ってほしいという声も挙がっている」。バンダイナムコゲームスが投じた一石は大きく、そして確実に波紋を広げつつある。

大切なのは高機能ではなくファン・ファーストの精神

少子高齢化やガラパゴスと称される市場環境など、日本企業はかつてない課題に直面している。そうした中、同社が目指すのは、ゲーム開発で培ったノウハウを様々な分野で役立ててもらい、オープンイノベーションを生み出すトリガーとなることだ。
家電の場合、開発した技術の多くを機能に落とし込むあまり、操作が難しくなることがある。たとえば、同社が開発に携わったNTT東日本のタブレット端末「光iフレーム2」では、使用シーンを細部まで徹底的にシミュレーションし、子どもや高齢者も快適に操作できるインターフェースを実現した。同商品の開発は、業界の垣根を超え、情報機器のユーザビリティ設計に役立つことを証明したといえるだろう。
「どんなに高機能なものも、ユーザーに伝わらなければ意味がありません。だからこそ私たちが大切にする『ファン・ファースト』の精神が活きてくる。ファンには、楽しみ(fun)と愛好家(fan)の2つの意味が込められています。ゲームは生活必需品でないからこそ、『どうしたらファンが楽しいと思ってくれるのか』を考え、さまざまな工夫を凝らしてきました。今後もこうしたゲームの手法で、他分野の商品やサービスに新たな価値を創造したいですね」

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