2017年7月16日日曜日

潰れる会社に必ずいる「静かな殺し屋」の正体



中村 陽子:東洋経済 記者
破綻企業の共通要素とは?(写真:wavebreakmedia / PIXTA)
平常時は一見円滑、自覚症状ないまま進行し、ある日突然牙をむくサイレントキラー。大手の破綻・優良13社を対象に、再生機構等が派遣した専門家や複数企業を知るOBなど87名にインタビューを実施し、アカデミックな方法論で破綻企業の分析を志した。『衰退の法則』の著者で、日本人材機構の小城武彦社長が見いだした破綻企業の共通要因に、あなたの会社は心当たりがないだろうか。

成功・失敗、責任の所在がはっきりしない会社

──共通項の第一が、経営陣の予定調和的な意思決定だと。
ガチンコの議論をしない。いつも会議はシャンシャンで終わって、そうなるよう事前調整するのがミドルの仕事。経営会議の場で幹部同士がガチンコの議論をするのはよしとしないから、基本的に全会一致。事前に誰かから反対意見が出ようものなら、事務局から「オマエ、調整が足りない」と言われ、上程を先送りするわけですね。
全会一致にこだわるのは、やはりギスギスしないほうがいいという価値観が強いから。上位者が何か言って、みんなで「おっしゃるとおり」と過度に同調する。そして他部門の話には口出ししない。意見すべきときでも言わない。全体最適でなく部分最適になってる。
──PDCA(計画・実行・評価・改善)が回っていないのも共通点。
はい。特にC(評価)とA(改善)は犯人捜しと解釈され忌避される。だから成功・失敗、責任の所在がはっきりしない。これもオフィシャルな場での対立は回避すべきという作法です。大風呂敷広げて始めるけど、その後どうなったかわからない。結果はうやむや、誰も責任を取らない。
──問題が棚上げされたまま、再構築のタイミングを逃してしまう。
小城武彦(おぎ・たけひこ)/1961年生まれ。東京大学法学部卒業、通商産業省(現・経済産業省)入省。1991年米プリンストン大学大学院修了。カルチュア・コンビニエンス・クラブ常務を経て、産業再生機構入社。カネボウ、丸善(現・丸善CHIホールディングス)社長。2015年より現職。2016年に東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。(撮影:梅谷秀司)
全会一致を前提にするかぎり、すっかり角が取れた毒にも薬にもならない折衷案に変容してしまって、本当に必要な角張った解決案は上がらない。で、ズルズルズルと衰弱死に向かうわけですよ。これが衰退のいちばんの原因なんですね。
全方位丸く収まるお膳立てを根回しできるミドルが“できるヤツ”と評価される。今はやりの“忖度(そんたく)”です。自分の意見は控えて上の考えを忖度し、紙に落として会議を通す調整ができる人間。当然有力者の近くにいるほうが有利なので、政治的影響力を持つ派閥、学閥、本流部門などに属していることが大事な出世条件になる。そして出すぎず、気が利くこと。
──つまり便利な人。
そう、上から見て便利なヤツ。「おお、そうだ。これが俺のやりたいことなんだよ」と褒められ、「はい、わかりました」とガーッと調整して、「常務、これで通せます」「よし、会議にかけろ」と。でシャンシャン会議を無事通る。そして「オマエよくやった」と彼を上に引っ張り上げるわけです。
ポイントは、そのミドルが社内調整しか知らないこと。そんな人間が経営陣に昇格して、まともな議論などできるわけがない。自分も踏襲してきた作法をわざわざ乱すインセンティブはないですからね。実力より社内政治と根回しと人間関係で勝ち上がってきたから、戦略的思考がない。それでその会社のヌルッとした会議は変わらないまま、日々回っていく。これがサイレントキラーです。

空気を読む日本独特の文化が拍車をかける

──衰退惹起(じゃっき)サイクルと表現されていますけど、それを回す方向に作用するのが、日本人が強く持つ相互協調的な文化であると。
日本人って空気読むでしょ。それがサイレントキラーの根底にある。他人の目を気にしながら物事を進めるというのが文化的に刷り込まれている。その“癖”がなぜ怖いかって、環境が安定しているときは誰も問題意識を持たない。
──それを断ち切るには、人事部門が牽制機能を発揮しているかどうかが1つの着目点ですね。
そうです。衰退惹起サイクルに歯止めをかけるくさびです。
優良会社の人事部は、各部門に人を入れ、客観的な情報把握に努めている。有力者が子飼いを一本釣りで引き上げようとしても、人事部のほうが一人ひとりの客観的データを持っているので、チェックが入るわけです。したがって本当に実力がある人、誰もが納得する人しか役員に上がらない。それは裏で人事部が機能しているのと、PDCAがちゃんと回っていて、データを基に論理的立案ができ、かつ実行した人かどうか検証してるから。単に空気読んでおべんちゃら言ってる茶坊主は偉くならない。
──ほかに衰退サイクルを回さない重要なくさびは?
経営陣が現場や現実を基にロジカルな議論を尊ぶという規範の存在。これはすごく大事です。幹部が持論と経験談一本やりだと若い人は口を挟めない。おまえは青い、経験が足りない、で終わりでしょ。顧客接点にいるのはだいたい若い人です。要は、最近売れ行きが悪いとか、お客から苦言が出たとか、営業の最前線でアラームが鳴ったとき、それがちゃんと経営の中枢に届く仕組みになってることが大事。ダメな会社ではいくら危機意識を訴えたって、事前の根回しのところで排除されちゃうか、角が全部取れて訳のわかんない文書になって会議に上がったりする。

悪気のない愛社精神で、衰退への道をひた走る

──衰退サイクルの自走……。
衰退の法則(東洋経済新報社/362ページ)書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします
自走は因果関係なんです。親玉たちが意思決定を予定調和的にやっていて、そうできるよう一生懸命ミドルが調整し、そのシステムに貢献したヤツが偉くなり──の循環。そんな連中だから社内政治力はあるけどリテラシーは低い。このサイクルが回っているかぎり直りようがないじゃないですか。しかも厄介なことに誰にも悪気がない。みんな愛社精神満載で、一生懸命仕事して衰退サイクルを回してるんですよ。だから一度回りだすとこれを止めることはそうとう難しい。
──自分の会社にサイレントキラーが潜んでいないかどうか、どの辺に注目したらいいですか?
まずはどんな人が偉くなっているか。忖度するのが上手、派閥・学閥・保守本流に属してる、気が利くだけ、なんてヤツばかり偉くなってる会社はヤバイでしょうね。いい会社で偉くなっている人は、能力と人格、やっぱり衆目一致する人物ですよ。何であの人偉いの?って人はいないんです。
それと雑談のテーマ。昼飯や夜の飲み会、たばこルームで、ダメな会社はほとんど人事の話をしてますね。社内の人間関係とか。いい会社は顧客や競合、市場、製品の話などをしています。さらに、幹部の話がちっとも論理的じゃなくて、持論と経験談、個人的感想に終始してるようだと、危ないですね。

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