2015年7月10日金曜日

半導体に取って代わられた真空管に復権の兆し、超高速のモバイル通信&CPU実 現の切り札となり得るわけとは?


By Tau Zero

電子回路の素子として使われていた真空管は、半導体の登場によって主役の座を奪われ、ブラウン管の製造中止と共に完全に息の根を止められたかに見えました。しかし、アメリカ航空宇宙局(NASA)は、真空管技術を応用した「真空チャネルトランジスタ」を開発、真空管によって半導体素子では実現が困難な超高速無線通信や超高速CPUの実現が期待されています。

Introducing the Vacuum Transistor: A Device Made of Nothing - IEEE Spectrum 
http://spectrum.ieee.org/semiconductors/devices/introducing-the-vacuum-transistor-a-device-made-of-nothing

NASA melds vacuum tube tech with silicon to fill the terahertz gap | Ars Technica 
http://arstechnica.com/science/2014/06/nasa-melds-vacuum-tube-tech-with-silicon-to-fill-the-terahertz-gap/

How Vacuum Tubes, New Technology Might Save Moore's Law - HotHardware 
http://hothardware.com/News/How-Vacuum-Tubes-New-Technology-Might-Save-Moores-Law-/

アメリカで開発された惣明機のコンピュータ「ENIAC」は、真空管を1万7468基使用していましたが、27トンの巨体に150キロワットの電力を必要とするマシンでした。この消費電力の大きな原因は、主として真空管によるもので、数多く使用している真空管は毎日どれかが壊れ、ENIACの運用に支障をきたしたと言われています。


大きくてかさばる上に消費電力も大きく壊れやすい真空管は、小型・軽量で消費電力も小さい半導体トランジスタの登場とともにあっという間に表舞台から姿を消し、現在では一部のオーディオマニアに重宝される以外には使われる場面がないほど衰退しました。

しかし、その過去の遺物と思われていた真空管の技術を用いた「真空チャネルトランジスタ」を、現在、NASAが開発中で、これによって数百Gbpsの超高速無線通信が実現したり、高速化に限界の見えるCPU性能のブレイクスルーを起こしたりできると期待されています。

真空チャネルトランジスタは真空管の原理を利用して、エミッタ・コレクタの間隔を150ナノメートルにした真空ギャップを作ることで物理的な接触なしにゲート間に電子が流れるように改良されておりMOSFETを代替するものです。従来の真空管ではミリメートルスケールだった電極間のギャップをナノメートルスケールに変更することで、電子が真空ギャップ内に存在する気体分子と衝突する頻度を大きく減少させられるため減圧処置が不要になるとのこと。


さらに、ナノスケールに極小化することで従来の真空管では必要だった熱電子放出も不要となり、カソード(陰極)を静電界に置くだけで電子を放出させることに成功しているとのこと。つまり、電極部分をナノスケールに極小化したおかげで、素子のサイズを大幅に小さくできるだけでなく従来型の真空管につきまとっていた「電力食い」という欠点をなくすことにも成功したというわけです。

NASAが極小サイズの真空管である真空チャネルトランジスタを開発したのは、宇宙空間での耐久力が大きな理由でした。宇宙空間は高エネルギーの放射線(電子線)が飛び交う過酷な環境であるため、耐久性に優れた真空管に白羽の矢が立ったというわけです。

By NASA's Marshall Space Flight Center

NASAが開発中の真空チャネルトランジスタは、すでに460GHzという超高速動作に成功しており、この技術を活用した超高速CPUの実現が期待されています。現在主流となっているシリコンベースの半導体では微細化技術に限界が見え始めており、今後もムーアの法則を維持していくには大きなブレークスルーが必要とされるところ、真空チャネルトランジスタにはその可能性が秘められていると言えそうです。

また、数百GHzという超高速での発振が可能な真空チャネルトランジスタはテラヘルツ帯(300GHzから3THz)の無線通信へ応用できると考えられています。テラヘルツ帯は、波長300マイクロメートル(周波数にして1THz)前後の周波数帯で、波源となる装置を製造するのが難しいためほとんど利用が進んでいませんが数十Gbpsの超高速無線通信に利用できると考えられています。

300GHzから3THzのテラヘルツ帯はTerahertz gap(テラヘルツギャップ)と呼ばれ、いまだ実用的な技術が存在しない赤外電磁スペクトルの「谷間」となっています。


NASAによると真空チャネルトランジスタの駆動電圧は10Vと高いため、今後さらなる低電圧化のための改良が必要で、また、大量生産するための製造技術の開発など、課題は山積みだとしています。


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