東京理科大学(理科大)は4月22日、細胞や臓器間のコミュニケーション、ほかの生物との相互作用などにおいて重要な役割を果たす天然のナノ粒子(NPs)である細胞外小胞「エクソソーム」様の米ぬか由来ナノ粒子(rbNPs)が優れた抗がん活性を有することを解明したと発表した。

  • 今回の研究の概要

    今回の研究の概要。rbNPsは細胞周期を停止させ、アポトーシスを誘導することで抗がん作用を示すことが明らかにされた(出所:理科大Webサイト)

同成果は、理科大 薬学部 薬学科の西川元也教授、同・鈴木日向子氏(研究当時)、同・板倉祥子助教、理科大 薬学研究科 薬科学専攻の佐々木大輔氏(研究当時)、理科大 薬学部 生命創薬科学科の草森浩輔准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、ナノスケール科学との接点に重点を置いた生物学に関する学術誌「Journal of Nanobiotechnology」に掲載された。

その大半が廃棄されている“未利用バイオマス”の米ぬかには、フェルラ酸、γ-オリザノール、α-トコフェロール、γ-トコフェロール、γ-トコトリエノールなど、さまざまな抗がん作用を示す物質が含まれている。そこで研究チームは今回、米ぬかから品質が安定したナノ粒子の製造方法を確立できれば、新たな抗がん剤の原料となる可能性があるとして、研究に取り組んだという。

コシヒカリの米ぬかをリン酸緩衝生理食塩水に懸濁(けんだく)し、その懸濁液を撹拌して遠心分離した後、上清を孔径0.45μmのシリンジフィルターでろ過して粗い残渣(ざんさ)を取り除き、ろ液が回収された。そして、超遠心分離した沈殿を懸濁し、孔径0.22μmのシリンジフィルターでろ過することでrbNPsを獲得。その平均粒子径は約130nmで、負に帯電しており、エクソソーム様の中空膜構造を有していたとする。

なお、rbNPsは米ぬかから効率良く調製することが可能であり、平均収量は米ぬか100gあたり約4×1013(40兆)個だったとのこと。そして、上述の米ぬかに含まれる主要な抗がん作用を持つ化合物群が、rbNPsには高濃度に含まれることも確認された。

その効果を調べるため研究チームは、rbNPs、または比較対象であり粒子径と電荷がrbNPsに近いコントロールナノ粒子を、がん細胞株と非がん細胞株に対して添加し、細胞増殖抑制作用を比較。その結果、rbNPsでは非がん細胞株に対して有意な細胞傷害性は示されなかったが、がん細胞株に対しては粒子濃度依存的な細胞増殖抑制作用が示されたとした。一方でコントロールナノ粒子では、いずれの細胞株に対しても有意な細胞数の変化は無かったといい、この結果は、rbNPsががん細胞に対して選択的な細胞増殖抑制作用を持つことを示唆しているとする。

次に、マウス結腸がん「Colon26細胞」に対する細胞増殖抑制作用が調べられた。まずブドウ、ショウガ、レモンの植物由来ナノ粒子との比較が行われ、rbNPsはすべての濃度でcolon26細胞の数を最も減少させることが確認された。さらに、抗がん剤「ドキシル」との粒子数ベースでの比較では、rbNPsは1×108(1億)粒子/mLという低濃度でも有意な細胞増殖抑制作用が確認された(ドキシルでは、0.1~10×109(1億~100億)粒子/mLでは減少がほぼ見られなかったとした)。

続いて、rbNPs添加による細胞増殖および細胞周期への影響を調べるため、細胞増殖を制御する「β-カテニン」、細胞周期を調節する「サイクリンD1」のmRNA発現量の変化、および細胞周期解析が行われた。その結果、rbNPsの添加により、β-カテニンとサイクリンD1のmRNA発現量は有意に減少し、colon26細胞周期のうちのG1期(最初の準備期)とS期(核のDNA複製期)の割合が有意に減少し、G2(2番目の準備期)/M期(有糸分裂期)の割合が有意に増加したとする。これは、rbNPs添加により細胞周期が停止し、細胞増殖が食い止められていることを示唆する結果だという。また、rbNPsはDNA断片化とクロマチン凝縮を誘導したことから、colon26細胞のアポトーシスを誘導することも示されたとした。

最後に、Colon26細胞が移植された腹膜播種モデルマウスに対し、rbNPsの腹腔内投与が行われた。すると、体重減少もなくcolon26細胞の腹膜播種に対する顕著な抑制が示されたという。この抗腫瘍効果は、colon26細胞に対するrbNPsの直接的な細胞傷害活性に加え、マクロファージを活性化することによる「腫瘍壊死因子α」などのサイトカイン産生によることが考えられるとする。

以上の結果から研究チームは、rbNPsはがん細胞選択的で強力な細胞増殖抑制作用を示し、抗がん剤の効果が限定的で予後不良な腹膜播種に対しても、がん細胞増殖を有意に抑制することが確認された。研究を主導した理科大の西川教授は、「rbNPsの安定した製造方法を確立し、ヒト細胞を用いた検討において安全性と有効性を確認できれば、安価かつ有用ながん治療用ナノ粒子製剤の開発につながるだろう」とコメントしている。